知られざるラモーンズの苦悩

 昨日、渋谷でラモーンズドキュメンタリー映画「END OF THE CENTURY」を観て来た。公開初日の初回上映だったので、熱心なファンが多数詰めかけていた。


 あまり明るい話ではない、というのは広告を見て知っていた。1ヶ月以上前から、この映画の宣伝サイトもチェックしていたので抗体は出来ていたつもりだった。観ながらも「やっぱりそうか」と納得したつもりだった。それなのに、映画館を出て寄り道をし、一緒に観に行った友人と別れ、一人家路につく途中、今日観た映画の場面を思い出すと、心の中に込み上げるようなむなしさを覚えた。


 そう、とても悲しかった。この映画はとても悲しい映画だった。


 決してハッピーではないバンドの歴史を、この映画では一つひとつ丹念に掘り返していく。しかも、メンバーたちが心に思っていたことや、知られざる過去の詳細な事実などが、次々と赤裸々にメンバーの口から語られて行く。


 私はラモーンズが大好きだ。あのマッシュルーム・ヘアに皮ジャンの、キュート過ぎるルックス。能書きなどいらず、頭カラッポにしてひたすら楽しめる高速ポップ・ソング。他に何と比べることが出来ようか。唯一無比の存在。本当に価値のあるバンドであった。彼らは我々に何か説教しようとも、受けを狙おうともしていない。愛想も良いわけではない。ただ「1・2・3・4、ガガガガ」・・・それだけ。それの繰り返し。単純明快、スピード感、そして曲から曲へ、と息つく暇を与えない曲間の短さ(というか無い?・笑)。だからこそ、であろう。ひたすら楽しく、なにか心の中のモヤモヤしたものをすっ飛ばしてくれるようなそんなサウンドであった。


 しかし、映画の中では、そのような表向きな部分ではなく、メンバーがあえて今まで語らなかった本当の実情が、あまりにも身も蓋も無くさらけ出されている。それが真実であるがゆえに、悲しい。


 ラモーンズの音楽を聞く上で、私は、彼らのバックグラウンドや彼らが何を考えているのかなど、あまり考えたことは無かった。それは考える必要が無かったからである。まあ、メッセージ性や新味に溢れたサウンドを打ち出したような性質のバンドではないし、あのずっと変わらないというスタイルに説得力があったので、深く考える事がなかったのだろう。余計なものはゴテゴテくっついてる必要などない。ただ音を聴くだけで楽しい。私にとってラモーンズはそういったバンドであった。


 故に、バンドの内情はどうだったのか、などと殊更に知ろうともしなかった。しかし、映画では、否応なしにバンド内の力関係や、最悪な人間関係、そしてそれぞれが抱える問題(メンバー自身の、強迫神経症アルコール中毒、ドラッグの問題)などが次々と露呈して行く。22年も同じバンドをやっていれば、対立や軋轢はあろうものだが、それにしてもメンバーたちの言葉は、本音過ぎて痛い。


 だがラモーンズを一番必要としていたのも、彼らなのであった。色々ありながらも、メンバーは皆、ラモーンズを愛していた。それを証拠に、憎しみあっていたジョーイが病気になり、そんな嫌っていた彼にいたわりや心配の気持が思わず発露してしまい、その気持にとまどっているジョニーの表情などは、まさにそうであった。彼らは素直であり、不器用な人達であった。だから思っていたことも包み隠さずそのまま語り、あのような辛辣な発言にもなっていたのであろう。それが少しわかっただけでも良かった。救いがあった。


 長くバンドを続けることは大変な労苦を背負う。でも彼らは続けるしかなかった。それしか術がなかった。そのための悲劇である。しかし、彼らのやってきたことは計り知れない大きな業績として残った。たとえ、売れなかったとしても・・・。


 今回、映画を観るまで、ラモーンズが、このような内情を孕んだ、苦しい中での活動をしていたなどとは思ってもみなかった。これを知ったことが良かったことなのかはわからない(複雑な気持です・・・)が、罵り合おうとも、強い信念を持って、皆がラモーンズに「こだわって」いた事が、あれだけの長きにわたる活動を支えていたというのがよくわかった。何より、作品中挿入されるライヴの素晴らしいこと!それに、初期から(レコードと違い)ライヴでは相当テンポ速かったという事を、当時の映像で目の当たりにし、とても驚いた。これならUKのパンクス予備軍たちが熱狂しない訳ないな、と。


 作品中、ジョー・ストラマーラモーンズの初のUKツアーの様子を、いかに凄かったかを握りこぶしを固めて(3回叩きつけるそぶりで)興奮して語っていた。そして、別の映像では、南米でのツアー時、移動中の車を群衆となったファンが取り囲みながら追っかけてきて、「Hey Ho Let’s go」の大合唱。みんな、ラモーンズが好きなんだなー、と単純に嬉しかった。今、思い出しながら書いていて、爆音でラモーンズをぶっ放したくなった。
 「1−2−3−4!!!!」